渋谷で

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「お兄さん?は?」 お兄さんの後に疑問形の?。これは僕をおじさんとして認識してるのではないか。そんな悲しい事が頭をよぎったが、あえて触れずにおいた。 「まだ1年くらいかな」 「そうなんだ。けっこう年上の気がしたけど、違うんだね」 やっぱり、おじさんと思っていて気を利かせてくれたらしい。 「うん、まぁね」 そんな会話をしている間も、やはり他に誰も来ない。 「まいったなー」 「何が?」 彼女が僕の顔を覗き込んだ。 「うん、今日、この仕事をするってなったから、いつものバイト休みにしたんだよね。だから、この仕事がなくなると、今月の生活費が・・・」 「そうなんだー。じゃ、別のバイトする?」 「別のバイトって?」 「今日一日、私と遊ぼ。それがアルバイト」 からかわれている。一回りも年下の女の子にからかわれるとなると、情けないやら切ないやらだ。 「からかってる?」 「からかってなんかないよ。ホントにホント。ほら、これ見て」 さらっと彼女は財布を取り出し、中身を見せてくれた。なんて事だ。僕の財布よりもはるかに入っている。 「ね、信じた?これはバイトだから、ご飯代とかも、もちろん私もちだよ。ね、いいでしょ?」 ここで断るのが分別ある大人なのだろう。けれども、僕は明日をも知れない大人だ。 「わかった。今日はそのバイトする」 すると、彼女は僕の腕にしがみついてきた。
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