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プロローグ
俺は、親父に憧れていた。
大陸一と謳われる剣士であり、大国グランフォードが誇る精鋭…最高戦力である王剣騎士団の団長でもあった、あの男を。
自己鍛錬する父の姿を幼いながらも目に焼き付け、他の村の子供連中が遊んでいても、俺は木の枝を拾っては模倣に耽っていた。
“最強”の背中を…追って。
…しかし、そんな当たり前の様に繰り返されていた日常は、唐突に終わりを告げた。
───火が炎が焔が赤が朱の紅色の、絶望の色に染まっていく。
『馬鹿っ! 何で戻って来たの!?』
あの日の“おれ”は、まだ力なんて持っちゃいなくって、ただ母さんに甘えたくて、ただ母さんと共に居たくて。
『ッ危ない!』
“この場”に辿り着いてから何度も何度も見て来た様な朱が目を覆い、視界全てを紅に染めていった。
が、その紅は見慣れないものだ…何故なら、それは…
『ッ…にげ、なさい!』
優しい母親が初めて見せた鬼気迫る表情に、俺が感じたのは恐怖などではなく───
『大丈夫…お母さんは強いって、あんたは良く知っているわよね?』
どうしようもない、無力感だった。
血が霞ませる視界…暗闇の中、その優しい声に小さく頷いたのは覚えている。
それから、近くにいたグランフォード兵が援護しようと走り寄って来たのを幸いとし、母はその彼に俺を預け、抵抗もできないままに何処かへと運ばれて行った。
『かあさん、かあさん!』
ただただ、そばに居たいだけだったんだ。
そのせいで母さんは───
母さん、は───
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