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1.にゅう学式典と公国の少女
*
「…ちょっと、離しなさいよ。」
「生意気だな……新入生の分際で三年に───」
男が強引に茶髪の少女の手を引き、痛みの為か少女は顔を顰めて大きく舌打ちを一つ。
明るめの茶髪が風に靡いたその瞬間、煌めく一閃。
「臭いのよ、口が。 閉じてなさい…いいわね?」
「わ、わる…悪かった!」
首に突き付けられた剣に、男は膝を震わせながらコクコクと頷き、少女は小さく「そう。」と興味無さげに呟いた。
そして溜息を吐きながら剣を鞘に仕舞い、そのまま踵を返したところで、男がゆらりと動く。
「───っなんて言うか馬鹿がッ!」
「…だと思った。」
背後から振り下ろされた剣に、少女は振り返り様に引き抜いた剣を斜めに当てる。
金属が擦れ合う耳障りな音が鳴り響き、少女は受け流しつつも更に男に踏み込む。
「…良かったわね、訓練用で。」
男は、答えなかった。
新入生に与えられる刃引きされた剣を再び鞘に入れ、少女が歩き出した次の瞬間───
男の額から紅が噴き出し、その目はぐるんと白目を剥き、仰向けに倒れる。
「次は“こっちを使う”から。」
剣帯にぶら下がる二本の内の、先ほどのものとは違う何処か清楚な雰囲気すら感じる鞘を揺らした。
少女は嘆息しつつ一歩…足を進め、
「……、いつまで……続くの…?」
弱々しく呟かれたその声は、例え人気のないこの場でなかったとしても、きっと誰にも届かなかったであろう。
もちろん、少女とて誰かに聞かせるつもりは無い訳で、そのまま踵を返して去っていくのみであった。
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