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朝の風は、穏やかに村を走る。
バイカル山の麓には、混血児とその他の信者が集まり、炊き出しの準備に追われていた。
その隅に、竹庇護で余れた篭がふたつ置いてある。
篭の中には、ローブを着た橙色の瞳を持つ青年と隠者ロウスが、入っている。
火の民であるフレアは、篭に吊るされた蝋燭立ての側に、首輪を付けられ、鎖で繋がれている。
キャンプに居るのは、組織の面子であり、それぞれ最低限の武装をしている。
カプスは、未だに姿を表さないユズキとクレアの存在に何度目かの舌打ちを繰り返す。
組織は、崩れていた。
それもこれもミネラグルンとクレア、フレアの暴走にある。
ミネラグルンは、封印石を勝手に持ち出した。
その騒動の最中にフレアはケテウスを逃がそうとし、挙げ句の果てに敵に情報を漏らした。
また、見張りを中断して駆け付けたクレアも、フレアを取り逃がした。
そして、クレアを追い掛けたユズキも帰って来ていない。
「どいつもこいつも!」
カプスは、押さえきれない怒りを舌打ちに変える。
閉じ込めたケテウスは、静かに読書をたしなんでいるし、ロウスは鋭い目付きでカプスを睨んでいる。
カプスとしては、ケーイよりもなによりもカスパルの復活が大切だった。
「親方様! 食事の準備が整いましたぜ!」
部下が、呑気にカプスを呼んだ。
カプスの苛立ちは頂点に達する。
「要らない。そんなことより、ミネラグルンを追った奴等はどうした! ユズキは、まだ戻らないのか!」
カプスが、我を忘れて怒鳴り散らす。
「親方、あんまし騒ぐと後で煮詰まりますぜ?」
そんなことを言った部下の身体が半分にずれた。
カプスは、一瞬にして、戦闘体勢を取る。
二打、三打、空気が刻まれる。
カプスの部下数名が、日常動作を止めて、崩れた。
奇妙なことに、用意された料理や物質に、部下の血液は飛ばない。
カプスの前には綺麗に切断された遺体だけが、転がっていく。
「――貴様! あのときの!」
カプスは、顔を上げ、シルエットの姿を認識した。
シルエットは、剣を構えて笑う。
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