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シルエットが、答えた。
「随分と血の気の多い民間人で」
ラヴィアが、完全に呆れ返った。
「イザリアはまだいい。北にあるクリブルクは、半年足らずで頭が解任させられる。頭が居ないときに周囲から狙われて潰されなきゃ良いけどな」
「随分と情勢に詳しいな」
「新聞だよ。稽古と戦の合間に読んでいた。南のグーフルは独裁国家が多い。南は戦線が引かれて足を踏み入れてはならない事態にある」
シルエットは、語る。
「とにかく。私たちはイザリアに行かなければならないのよね」
ティラが、本題を振った。
「イザリアに知り合いはいねえな。栗鼠公。イザリアに部下を飛ばして情報を先に集めてくれ」
シルエットが、酒をグラスに開けた。
棚から引き出した瓶は、チェリー酒だ。
宿屋には、客を歓迎するための余興が用意されている。
三人が入った宿は、飲物を提供する場所のようで棚には、数種類の飲料が並べられている。
「うむ、一応、渡り鳥に頼んでおこう」
ロウは、地図の上で頷いた。
2
怪我の治療をした三人は、即効で眠りに落ちた。
ロウは、月を眺めて眉を潜める。
また、朔の晩が回ってくる頃合いだというのに月は最後に見た三日月のままであった。
ティラ達は天文学には詳しくないようで、特にその事に気がついていない。
今、先に旅立ってしまったアルエラも異変には敏感だったが、月の満ち欠けまでは気にしていなかった。
大陸の朔は、月初めにある。朔月を一日として考え、十五日が満月となる。
人間は、空には無数の星が広がり、星には神様が居ると信じている。
巫女や神主は、神様の言葉を受け取り、人間に幸をもたらすとして疑わない。
だが、今、秩序は乱れていた。
情報網が遮断され、人は個々に関わりを持てずに与えられた環境で、迷走している。
そして、天(そら)も本来の動きを止めている。次の朔月を読み誤ったときに襲撃をされては、太刀打ちのしょうがない。
ロウは、宿の屋根にいる。
屋根から見える街は、静寂を保つ。
その暗闇を切り裂いて、梟が、飛来する。
真っ白な梟は、ロウが待ち望んでいたセイルーヌの使者であった。
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