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「我はティラ殿の胸元に――」
ロウは、全てを振り払うようにティラの膝に乗ろうとしたが、白梟につつかれた。
「痛っ。なにをするのだ!」
白梟は何も言わない。
「ロウ。セイルーヌ嬢に宜しく。それから、近道を教えてくれたことに感謝していると伝言を頼めるかな?」
「近道を? 我にも教えてたもれ!」
ロウが、嬉々として食い付いた。
「いや、教えたら僕が殺されてしまう。勘弁して欲しい」
ラヴィアが、慌てるように両手を振った。
「よっぽど彼女に気に入って貰えたみたいね。御馳走さま」
ティラが意地悪く言った。
「とにかく、なにかあったらその道からセイルーヌ嬢に伝えに行くよ」
ラヴィアが、無駄に一生懸命、話を変えようとしていた。
「ええと、他に決めごとがないなら僕は戻るよ?」
「我の保管場所がまだ――」
「それは、ラヴィアの小銭入れの中よ。私もそろそろ戻るわ」
ティラが、ロウの言葉を遮り、先に部屋に戻る。
「じゃあ、僕もそろそろ」
ティラの後を追いかけるラヴィアをロウは全力で止めようとしたが、無駄なことであった。
白梟まで、空に発つ。
屋根に取り残されたロウは、深く息を吐く。
人間は、面倒を嫌がる生き物だと聞いていた。
しかし、彼等は、運命に抗う。
ネンリの言葉がロウの頭に反響する。
ロウは、再び、訪れる未来を描く。
しかし、描く未来に彼等の笑顔は見えない。
あるのは白紙の世界だ。
ケーイの姿すらロウには見えなかった。
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