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一切の光が差し込まない、闇の中。
何処を見るでもなく目を開けていた俺に、女性の声が掛かった。
『アキナガ少尉、準備は出来ましたか?』
20歳半ばほどの若々しい女性オペレーターの声だ。
その声が発する問いに、俺は一度だけ「嗚呼」と答える。
『射出5秒前、4、3、2、1……』
胸の奥を高揚感のような、緊張感のような、恐怖のような、ぐちゃぐちゃした感情が駆け回る。
その気持ちに整理は付けない。
どうせ、すぐに消える。
『射出!』
ド、ンッ、と二度に渡る加速による強烈なGが体を襲う。
しかし、気絶までは至らない。
着ている戦闘服が耐Gスーツの役割を担い、パイロットにそれを許さない。
この瞬間、気絶できたらどれだけ良いだろうか、と何度思った事だろう。
だが、そんな後ろ向きの思考もすぐに消える。
不意に、周囲が明るくなった。
超大型飛行戦艦『鯨』の胎の中から生まれ落ちた俺は呟く。
「シリウスmark-Ⅱ……起動」
その瞬間。
特徴的な電子音と共に、俺の搭乗する人型戦闘兵器の一柱『Will』である、シリウスmark-Ⅱは目を覚ました。
搭乗席に光が宿る。
目に映るのはセンサー、レーダー、モニター、そしてその他の計器類。
だが、俺の視線は、搭乗席の外を真っ直ぐに見据える。
遥か下に見える荒野では、既に敵との戦闘が行われていて、多種多様な色のレーザーが飛び交っているのが見えた。
高度1000m。重力に身を任せた約14秒の空の旅。
そのたった14秒の間に、俺の思考は無駄を削り、省き、最適化されていく。
不安が消え、緊張が消え、高揚が消え、感情が消える。
ただ、「敵を殺す」。
その為の武器へと、自ら成り果てる。
ズン……、と体に衝撃が響き、地面に着地したことを知る。
レーダーを視界に入れると、三機の敵影が自分の周辺に居るのが分かった。
その内の一機へ、シリウスを走らせる。
シリウスは最高時速1300km。
あまりの速さに周りの風景が歪む。
敵が、こちらに気づいた。
鋭利な刃物を思わせるフォルムの黒い人型。
敵国の量産型戦闘兵器、プロキオンmark-Ⅲだ。
胸部にルビーのように赤い球体が見える。
あれは搭乗席であるメイン・コア、機体の頭脳を司る最大の急所だ。
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