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あたしは、平凡な顔立ちだけど長身の彼氏がいるし。スタイルはよくないけど、デブでもないし。成績なんて中の下くらいだけど、別に進学校なんて行きたいと思わないし。家族も健康、ご飯もおいしい、今朝の占いだっておひつじ座一位だったし。
特に不幸せではない、のに。
学校へ行くと、何でこんな暗い気持ちになるんだろう。
あたしたちの中学のグラウンドは、学校から少し離れたところにある。渡り廊下から上履きのまま飛び出したあたしとかすみんは、校門から歩いていくよりはショートカットした近道を、小走りに駆け抜けた。
上履きのまま外にでると、ちょっとどきどきする。規則に縛られたあたしたちが、ちょっとルール違反をする、ささやかなひととき。スカートを短くしたりするのとは、また、ちょっと違う。
あとで靴をふけばいいだけなのに、何か怖いものを踏みつけているような、誰かに見つかってしまいそうな、ざわざわしたこの感覚。
そんな小さなスリルも、束の間で。あたしはかすみんに言われるがまま、グラウンドの砂をかき集める。
我ながら、なんてばかばかしいことをやっているんだろう、と思った。昼休み、わざわざこんな寒いところで、何をやっているんだろう。
この砂が、人を傷つけるとわかっているのに、あたしは砂をかき集める。かすみんが用意したビニール袋に砂を流し込むたび、灰色の砂が、爪の間に詰まっていく。
まるで、変な生き物みたいに黒く硬くなっていく。
かすみんは、珠子の靴に砂とゴミを押し込んでいる。
あたしは、それを横目で見ながら、先生や生徒が通らないかどうか見張りをさせられていた。
珠子は、砂が詰まった靴を見て、何を思うだろう。
「かすみが、にくい」
そうだよね。隣にただいるだけのあたしは、関係ないって思ってくれるよね。
あたし、別に、直接何かをしたわけじゃないし。ただ、横にいるだけだよ。
汚い言葉なんて、何一ついってないし。砂だって、詰めただけだし。あたしは何も、悪いことしようと思ってないよ。珠子のこと、嫌いじゃない。特に好きでもないけど。
「かすみ、だけが、にくい」
お願い、そう言って。
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