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「なんか、いろいろ抱えて悩んでそうだったから」  言われた瞬間、カッとなった。いろいろグルグル悩んでいたことが初対面の人にも分かったなんて……。  お礼もそこそこに私は立ち上がった。帰ろうとする私に彼は慌しくその絵をちぎって渡した。そして私の背に声をかける。 「俺はルーカス! たまにここで描いてるからまたおいで!」  これが私とルーカスの出会いだった。  結局家に着いたのは門限ギリギリだった。お母さんにちょっと小言を言われたけど、私はお風呂に入ってそのまま自分の部屋に入った。そしてベッドに腰掛けて、かばんからあの絵を出す。  さっきはカッとなってちゃんと見なかったけど、確かにいい笑顔をしている。下手と言ってしまえば下手なんだけど、生き生きとしていると言うか……。あの短時間でよくここまで描けたな。絵心のない私でもそう思う。  右下に“Lucas”と書いてあった。  塾は週に三回。明後日も彼に会えるのだろうか。
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