第1話

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会社に戻り、給湯室の向かいにある、ちょっとした洗面台で歯を磨く。 後10分で、休憩が終わる。 背後にフワッと人の気配がした。 無意識的に振り向くと、鯛焼きを頭側から頬張りながら、まだ幾つか入っているであろう紙袋を差し出すオハギさん。 「ん。」 歯磨きしてるの見えませんか? 面倒なので、取り敢えず受け取る。 オハギさんは、昼食後に必ず甘ったるい物を食べている。 そして、その残りを押し付けて来る風に、私にくれる。 結果、残業の時にたすかるんだけど。 でもさ、マメにこういう事をされると…その意図を詮索してしまうじゃない? 親愛の印って事にしてるけど。 会社の上司が部下に餌を与えて、仕事のモチベーションを上げる為か? コーヒーを奢る代わりに、鯛焼き買って来たみたいな? 確かに、私はマイボトル持参者だし、コーヒーは飲めない。 むしろ、お茶派。 だから、鯛焼きの方が助かるんだけどね。 …ただ、周囲の目は、そうは見てくれない。 ひたすらオハギさんが、モナカさんを落とす為、手を替え品を替えて貢いでいるらしい…みたいな噂は流れた事もある。 でも、鯛焼きよ? しかも、食べ残した鯛焼きよ? 落とす気あるのか?
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