スペードのA

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「萌美、おはよー。」 眠そうなテンションの低い声。 やや掠れたその声に安心感を覚えるのは、きっと15年という付き合いの長さのせいだろう。 幼稚園からずっと同じ学校に通い、これまでいつも行動を共にしている幼馴染の彼。 「あ、康弘。おはよう。」 大迫康弘。 私と同じ年、そして腐れ縁の男子。 彼は眠そうに欠伸をしながら、先に乗車していた人の波を掻き分け私の隣に立った。 そしてひょいと私が掴んでいた吊り革に斜めから手を伸ばし、まるでバトンタッチをするかのようにそれに捕まる。 「ほれ。」 康弘は私の方に肘を突出し、そこに掴まるよう促してくれた。 そして私も、遠慮なく彼の腕に手を掛ける。
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