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「ところで使えそうな道具持って来たんで、見てもらえますか?」
とバックパックに入れた斧やナタなどを取り出す。
「おぉ、斧持って来たんだ。ちょっと錆びてるけど使えるだろう。」
「研ぎ方がイマイチわからないんですけどね。」
「まぁまたその内教えるよ。」
「じゃあ、今日行こうと思ってる場所へ出発しようか。」
「はい。」
北海道犬の亀ちゃんを先頭に、渡瀬さん、そして俺と列になって歩き出した。
亀ちゃん、渡瀬さんとも意外と歩くのは速い。ここら辺りの森は平坦な部分も多いのだけど、それでも結構スタスタと歩いて行く。
俺はその背中を見ながら、今は自分に出来る事をやるしかない。それが何かさえよくわからないけれど、この人は俺の知らない事を何か知っているような気がする。それを教えてもらえるかわからないけれど、見ているだけでも何か勉強になるはずだ。
そんな事を思いながらも、しばらく歩いていると、ふと振り返り、「歩くスピードは速くない?」と訊かれた。
「いや、大丈夫ですよ。」
「意外と山歩きは慣れているようだね。」
「えぇ、子供の頃は山行って遊んでましたからね。低い山ばかりでしたけど。」
「いやいやそれがいいんだよ。感覚として子供時代に培われたんだろうね。」
「亀ちゃんが良いペースで歩きますね。」
「そう。こいつが一番森の歩き方知ってるからね。彼がリーダー。賢いよ。」
「確かに賢そうな顔した犬ですね。」
俺はどちらかというと犬は苦手なので、最初の頃はそんなに亀ちゃんと触れ合わなかった。でも確かに賢い犬だと思った。まず無駄吠えする事がない。吠えるのは何か合図する時ぐらい。そして先頭を歩いていても、後ろの渡瀬さんが歩みを止めると、すぐに気付く。これは良いパートナーだろうな。
そして1時間ほど南に歩いた場所がその日の作業場所となった。
「さぁ、今日はあの木を伐ろうか。」
その日から、森の中での学びが始まった。
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