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「ティルアはここか?」
「――――!!
違います、ティルア様がこのような所におられる筈がないでしょう!」
アスティスの言葉にカルピナは強い語調で否定してきた。
勿論アスティスもそうなることは予め理解しており、次なる言葉を用意する。
「マール姫から話を聞いた。
……ティルアが怪我をしていることも。
ティルアが日常的に姉達から虐待を受けていることも知っている。
そしてそれを外の者である俺やアザゼルに知られたくないがゆえに自室に戻れずにいることも。
――その上で言っている」
「…………!!
それは――でも、それでも……!」
それでもなお踏み込ませない理由があるのだとすれば。
「城下視察に訪れた際、ラズベリア城のある功労者を訪ねた。
……あらかたの事情は知っているつもりだ」
「メイド長……アスティス様に話したのね……、あの口の堅いお方が――!?」
カルピナはドアを手にしたまま、驚きのあまり眼を見開いた。
老婆は訪ねてきたアスティスの姿を見た瞬間から、取り憑かれたようにして話し始めた。
姫王宮の歴史から、小国同士の統合の話を皮切りに、ティルアの母親セリアのこと、ティルアの出生のこと、三年前ティルアに起きた悲劇のこと、その後、城を去るまでの出来事を、詳細に。
「……きっとメイド長はアスティス王子に何か感じるものがあったのかもしれないわね」
カルピナから警戒が消え、ドアを握っていた手が緩まった。
「ティルア様には、アスティス王子が秘密を知ったことは言わないでいただけませんか?
これ以上ティルア様には傷付いて欲しくない……だから――」
昏く沈んでいくカルピナ嬢の横顔を眺めながら、アスティスはそれ以上の言葉を続けることが出来なかった。
“ 自分がティルアを地獄に突き落とした張本人だ ”
その真実を口に出すことが出来なかった。
残酷な真実から目を背けてしまった。
「……どうぞ、入って」
カルピナに促されるままに部屋に入室してすぐ、消毒液の匂いがアスティスの鼻をついた。
六畳ほどの空間に、タンスや机、テーブルなどの家具類が見え――その奥に置かれたベッドの上に、ティルアはいた。
「――――――!!」
ティルアの姿を目にしたアスティスとアザゼルの二人は言葉を失った。
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