第1話

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それがなにを意味するかしばらくわからず、 「それはすぐに治るの」と、訊ねた。 「いや。ごめん。つまりは……亡くなったんだ」 それでも玲子は「それは、どういう意味」などと、 なんども訊いては「心臓病らしくて」「ホテルでそのまま」 「夜中に発作が起きた」などと断片的な情報を 引き出したすえに、ようやく理解した。 喪服はクリーニングに出す時間すら、 与えられなかった。 しわの残った喪服の背中を、 玲子はじっと見ていた。 三十七歳の若さだと聞いて、この背中の持ち主である了一も、 百合子も、同じ歳なのだなと、ぼんやりと思った。 水谷は独身だったので、喪主は彼の父親だった。 誰もが知る会社の重役だとそのときに知った。 母親は大人しそうな夫人で、ずっとうつむき涙をときおり、見せた。 百合子の「あの人、意外と常識人だから」 という言葉を思い出した。 海外の賞をいくつも受けた演出家として 有名な水谷の葬儀だったが、 密葬として行うために親族や親しい友人だけ、 知らされたようだ。 それでも弔問客が絶えないほど、 水谷には友人が多かった。 帰りは了一と一緒だった。 百合子も弔問客のなかに見つけた。 大通りに出たところで、タクシーを待っているようだった。 だが、声をかけるまえに、 了一に呼び止められたのだ。 「お別れの会をやるらしいね」 「お別れ?」 そう答えてちらと百合子の方に目をやると、 すでに車に乗り込むところだった。 「どこかの会場を貸し切ってやるってさ。 水谷のスポンサーをやったことのある企業が かんで、大々的に」 「大々的に」 「大変だな、有名人も」 と、了一は玲子を見て「そうか、君もか」と笑った。 「あなたも」 彼も写真の世界では有名だと、 水谷に訊いたことのある玲子は、そう言った。 「知る人ぞ知る、程度だから、俺は」 とくに自嘲するわけでもなく、彼は笑った。 「それは、わたしもよ」 前衛劇なんて、マイナーな分野なのだ。 しかも、六十年代の残滓などと言われて、 演劇好きの人からも、揶揄された。 それでも、水谷の愛人だというゴシップで、 多少、知られてはいたかもしれない。 歩けば、振りかえられることもあったのだ。 「目立つな、あなたは」 了一はそう言って、 自分のスタジオに玲子を誘った。 「コーヒーくらいなら、あるから」と。 そのまま、彼のところに居ついた。 水谷と住んでいたマンションは
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