第1話 はじまり

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少年が産まれる遥か前から、その扉は宙にあったという。 なぜ扉が空中にあるのか、少年はその謎を知りたくてしかたがなかった。 時間を見つけては森に来て、扉を眺める。 そうしているうちに、気づいたことがある。 2ヶ月に一回、必ず扉が地上近くに降りてくるのだ。 その扉の金色のノブには絶対に届かない距離ではあるのだが、いつもよりも扉に近づける。 そして今日が扉が地上近くに降りてくる日だった。 少年は朝早くに家をでて森の広場にやってきた。 扉が降りてくる時間はまちまちなので、降りてくるのを待つ。 「なかなか降りてこないな」 少年がぽそっとつぶやき、上半身を起こす。 そばに置いていた布袋から、真っ赤な果実を一つ取り出すとかじりつく。 甘酸っぱい果汁が口いっぱいにひろがる。 「当たり~♪」 少年は嬉しそうに笑う。 広場に来る途中で見つけた果実。 当たりハズレが大きく、なかなか美味しいものに巡りあえない。 でも今日のは美味しかった。 果実を食べ終えて、しばらくすると、宙にある扉が静かに少しずつおりてきた。 少年は立ち上がり、扉をよく見ようと近づく。 ゆっくりと降りてくる扉。 少年の背丈よりも少し高い位置まで降りてきて、ピタリと止まる。 「いつもより近いかも!」 少年は目を輝かせ、扉に彫られた複雑な模様をじっくりと観察する。 扉の中央には立ち姿のドラゴンの絵が描かれている。 ドラゴンの左手の上には光る石がはまっている。虹色に輝く不思議な石。 ドラゴンの左上には小さな鳥の姿。 鳥には長い尾が5本ある。 ドラゴンの足元に描かれているのは頭に長い一本の角がある馬と、背中に2対の翼がある馬。 他には色々な植物の絵が描かれている。 扉の外周には、びっしりと文字のような模様がある。 金色に光るノブの下には鍵穴があった。 「鍵穴なんてあったんだ」 いつもよりも扉の位置が低かったので、はじめて少年は鍵穴をみつけた。 「どんな鍵であくんだろう?あの扉開けてみたいなぁ」 少年はつぶやき、鍵穴の形をよく見ようと背伸びする。 その背後から声がかかった。 「開けてあげようか? 君、いつも来てる子だよね。覚悟があるなら、開けてあげるよ」
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