21人が本棚に入れています
本棚に追加
/326ページ
少年が産まれる遥か前から、その扉は宙にあったという。
なぜ扉が空中にあるのか、少年はその謎を知りたくてしかたがなかった。
時間を見つけては森に来て、扉を眺める。
そうしているうちに、気づいたことがある。
2ヶ月に一回、必ず扉が地上近くに降りてくるのだ。
その扉の金色のノブには絶対に届かない距離ではあるのだが、いつもよりも扉に近づける。
そして今日が扉が地上近くに降りてくる日だった。
少年は朝早くに家をでて森の広場にやってきた。
扉が降りてくる時間はまちまちなので、降りてくるのを待つ。
「なかなか降りてこないな」
少年がぽそっとつぶやき、上半身を起こす。
そばに置いていた布袋から、真っ赤な果実を一つ取り出すとかじりつく。
甘酸っぱい果汁が口いっぱいにひろがる。
「当たり~♪」
少年は嬉しそうに笑う。
広場に来る途中で見つけた果実。
当たりハズレが大きく、なかなか美味しいものに巡りあえない。
でも今日のは美味しかった。
果実を食べ終えて、しばらくすると、宙にある扉が静かに少しずつおりてきた。
少年は立ち上がり、扉をよく見ようと近づく。
ゆっくりと降りてくる扉。
少年の背丈よりも少し高い位置まで降りてきて、ピタリと止まる。
「いつもより近いかも!」
少年は目を輝かせ、扉に彫られた複雑な模様をじっくりと観察する。
扉の中央には立ち姿のドラゴンの絵が描かれている。
ドラゴンの左手の上には光る石がはまっている。虹色に輝く不思議な石。
ドラゴンの左上には小さな鳥の姿。
鳥には長い尾が5本ある。
ドラゴンの足元に描かれているのは頭に長い一本の角がある馬と、背中に2対の翼がある馬。
他には色々な植物の絵が描かれている。
扉の外周には、びっしりと文字のような模様がある。
金色に光るノブの下には鍵穴があった。
「鍵穴なんてあったんだ」
いつもよりも扉の位置が低かったので、はじめて少年は鍵穴をみつけた。
「どんな鍵であくんだろう?あの扉開けてみたいなぁ」
少年はつぶやき、鍵穴の形をよく見ようと背伸びする。
その背後から声がかかった。
「開けてあげようか? 君、いつも来てる子だよね。覚悟があるなら、開けてあげるよ」
最初のコメントを投稿しよう!