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いきなりかけられた声にびっくりして、少年は振り返る。
いつの間にそばに来たのか、見慣れない一人の女性が立っていた。
黒い長い髪を背中で一つに束ねている。
瞳の色は緑。少しキツイ印象を与えるアーモンド型の目には、強い光が宿っている。
すらりと通る鼻筋にすっきりとした輪郭、美人の類いに間違いなくはいる女性。
青いシャツに黒いズボンの女性は、背中に大きな剣を背負っていた。
「えっ……いま、なんて?」
少年は言われた言葉の意味をすぐには把握できず、聞き返す。
「この扉に興味があるんでしょう? 覚悟があるなら、開けてあげると言ったのよ」
女性は笑顔でさらりととんでもないことを言った。
「……開けられるの? この扉を?」
少年の驚いた顔を真っ直ぐに見つめながら、黒髪の女性はポケットから鍵束を取り出す。
鍵束には大きな鍵が一本と小さな鍵が7本ついている。
どの鍵も綺麗な細工がほどこされている。
「この虹色石がついている鍵で開けられるわ」
小さな鍵の一つを少年に見せる。
その鍵についている石は扉のドラゴンの左手にある虹色の石と同じように見えた。
「ただし、この扉の先に待っているものは、あなたの人生を大きく変えてしまうでしょう。それでもよければ、扉を開けてあげるわ」
少年はその言葉に躊躇(ちゅうちょ)する。
「扉の先に行ったら、戻っては来られない……とか?」
「まあ、そういうこともあるかもね」
女性は軽く肩をすくめてみせる。
「迷うならやめておくことね。家族も待つ人も誰もいなく、この世界に未練がないのなら、扉の先に行ってみればいい。……どうする?」
少年は必死に考える。
少年に家族はいない。まだ赤ん坊の頃に森で拾われたのだという。
施設で育った少年は、来年には独立しなければならない。
今の施設の人たちはいい人が多いが、来年には別れなければならない。
それが今に早まるだけの話……。
少年が大切にしている物も今持っている布袋の中身だけ。
「…………でも突然いなくなったら、心配するかも…………」
「手紙を書く? 手紙くらいなら届けたい場所に届けてあげるわよ」
女性はなにもない空中から、紙とインク瓶とペンを取り出した。
「……えっ?」
少年が目をまるくする。
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