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「魔法というのよ。この世界には…………なかったわね、そういえば」
女性は今取り出した紙とペン類を少年に渡す。
「あっ、机もいるわね」
今度は小さな机と椅子がなにもない空間からあらわれ、少年の前に降りてきた。
あっけにとられている少年に女性は言う。
「あまり時間はないから、手紙を書くなら早くね。扉が空中の定位置に戻ってしまったら、あなたを連れて行くことはできないから」
少年はその言葉を聞くと覚悟を決めた。
椅子に座り、インク瓶にペンをつけ紙に文章を書いていく。
お世話になったお礼と、急だけど次の進みたい道がみえたので街を離れるということを。
手紙を書き終え、封筒にいれる。
「届けたい場所を強く思い浮かべて」
黒髪の女性に言われ、少年は施設を思い浮かべる。
女性がなにかつぶやく。
封筒が淡く光り、少年の手から消えた。
「ちゃんと届いているから大丈夫よ。じゃあ、行きましょうか。扉の向こうへ」
女性がペン、インク瓶、机と椅子に軽く手を触れていくと、それらは現れた時と同じように突然消えた。
少年は布袋を肩から下げる。
期待と緊張で胸がドキドキする。
女性がまたなにかつぶやくと、扉がゆっくりと降りてきた。地上まで扉が降りる。
少年は扉の美しさに目を奪われる。
虹色の石がついた鍵を女性が鍵穴にさしこんだ。
左に鍵をまわし、鍵を鍵穴から抜く。
「開けるわよ」
女性が少年に言い、ノブをまわす。
ゆっくりと扉が開く。
「さあ、中へ」
女性に言われ、少年は扉をくぐる。
扉の向こうは一面灰色の空間だった。
灰色の空間に少年はたちつくす。
後ろで女性が扉をしめ鍵をかけると、扉は消えた。
「私の後についてきて。離れないでね」
女性は少年に微笑むとゆっくりと歩き出す。
足元は固く普通に歩ける。
ただどこを見ても灰色なので、方向感覚がおかしくなりそうだ。
女性はまっすぐに歩いていたかと思うと左に曲がる。一瞬女性の姿が見えなくなり、少年は足を速める。
左に曲がると女性の姿がまた見えた。
何度か左に曲がったり右に曲がったりを繰り返すと灰色だった空間が、だんだん白っぽくなってきた。
しばらくすると目の前に、入ってきた扉によく似た扉が現れた。
扉の真ん中にはドラゴンの模様。ドラゴンの左手上には紫色に光る石がはまっている。
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