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周囲の様子を探るために一時待機を命じられ、中津らの連隊は鬱蒼と生い茂るジャングルで足止めしていた。日本では寒さが厳しくなる季節だというのに、この島では毎日が夏だ。
『物がないんじゃ、金なんてただの紙切れだ。それより、この暑さ何とかならんもんか』
周りの兵隊たちも話に加わる。
『今頃日本じゃ雪か』
『さぞかし、寒いんだろうなあ・・・・』
兵隊の何人かは目を瞑り故郷を思い返した。
『東京も空襲を受けたらしい。中津さん、あんたんとこは大丈夫なのか?』
話の輪に入らず、中津は葉に溜まった雨水を両手で受けて口に含んでいる。ゴクッと喉を動かすとようやく言葉を返した。
『さあな・・・・全てを知ることができるのは神か仏だけさ』
『無事だといいな・・・・』
ドォンッ!
大砲の音が一発聞こえたと思うと周囲の土が飛び散り、視界が遮られた。
それからすぐ連続して大砲音が数発と銃声が響いた。中津は体勢を低くし、銃を構えた。
『十時方向に敵襲!』
そう声が聞こえたと思う間もなく、森から放たれた砲弾が日本兵に命中し、複数の者が草原に倒れ込んだ。
パパパパンッ!パンッ、パパパパンッ!
中津は歩兵銃を砲弾が飛んできた方向に発射し、木の影に身を隠しながら攻撃を続けた。
数分の攻防の末に音は止み、巌は周りを見渡した。先程まで話していた兵隊たちが地面に転がっている。その中に高松もいた。
『高松、高松・・・・』
中津は近づき、彼の状態を見たが複数の弾が胸と腹に穴を開けていてとても助かる傷ではない。
『中津・・・・これはお前が・・・・使え』
虫の息でそれだけ言い残し、手に握った紙幣を中津に渡した。
目を開けると家の布団の中に巌はいた。
「眠れました?」
声のする方に目を向けると千代が座っている。
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