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ズズッ
それを見て千代も甘酒を口にした。
ズズッ
千夏も手を伸ばして欲しがったので、千代はふーっと息をかけた。
「千夏ちゃんにはまだ熱い。今、お母さんが冷ましてくれてるから、ちょっと待ってな」
そう言って児嶋は本棚の絵本を一冊手に取り、千夏の前で開いた。
「私はどうも・・・・」
巌は飲もうとせず、湯呑みを児嶋に返そうとしている。
「甘酒は飲む点滴だ、栄養もある。薬と思って飲みなさい」
児嶋の一言に巌は湯呑みの甘酒をじっと見た。
「甘くて美味しいですよ」
千代の言葉に反応し、渋い顔で彼女を見た後甘酒を啜った。
ズズッ
塩入りの甘じょっぱい甘酒だ。巌はこの独特の風味が苦手だった。
「昔、昔、あるところにお爺さんとお婆さんがいました」
児嶋は千夏に絵本を読んでいる。
恐らく、自分がいない間に千夏の面倒を見ていたに違いない。千夏とも千代とも距離が近いように巌の目には映っていた。
甘酒を飲み干してすぐ巌は徐に立ち上がった。
「児嶋先生・・・・私が不在の間、千代と千夏の面倒を見て頂き、ありがとうございました。今後ともどうか宜しくお願い致します」
感謝の言葉と同時に巌は痛む背を丸めて頭を深く下げた。読んでいた本を千夏の膝に乗せて、児嶋は巌に近づき彼の肩に触れた。
「よして下さい、中津さん。私も千代さんには世話になった・・・・少しばかり診療所を手伝ってもらってね・・・・。まあ、困った時はお互い様。礼を言われる程のことはしていないよ」
巌と顔を合わせると彼はもう一度軽く頭を下げた。
「まあ、それより・・・・傷の方をね・・・・あちらで診ましょうか」
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