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手紙も書けない状態であったことはこれを見れば、納得はできた。恐らくは右手を失い、無事を知らせることができなかったのだろう。
「・・・・軍曹・・・・殿・・・・・・お願い・・・・しま・・・・す」
部屋を片付けていると逆側で寝ている巌の声がした。
「軍曹・・・・殿・・・・腕を・・・・・・腕を・・・・」
苦しそうにそう口にする巌に近づいた。
「がぁっ!ああ・・・・・・」
右肩を押さえるようにして呻き声を上げた途端、巌は目を覚ました。
「はあ・・・・ああ・・・・ああっ・・・・・・・・」
顔を横に向けると千代と目が合った。
「はあ・・・・千代。すまないが、水を持って来てくれないか?」
巌の言葉に千代は頷き、半紙を持ったまま部屋を一旦出て行った。
「ああ・・・・・・はあ・・・・くそ・・・・・・」
千代が水を持って再び現れた時には、巌は上体を起こして座っていた。
「お水です・・・・」
「ああ・・・・・・」
差し出された湯呑み茶碗を左手で受け取り、一気に水を飲み干した。
「ああっ、はあ・・・・ああ・・・・」
湯呑み茶碗を千代に返すとまた布団に横たわった。
「・・・・・・何も話してはくれないのですね・・・・」
「・・・・何を話す必要がある・・・・・・」
顔だけを左に向け、悲しそうな表情の千代を見る。
「その、お心内を・・・・」
「知って何になる・・・・・・」
ギロッと鋭い目線をこちらに向け、巌は冷たく返す。
「それは・・・・・・」
言葉に詰まった千代に巌は続けた。
「さあさ、お前には千夏がいるんだ・・・・・・俺を構う時間があるのなら、あの娘を構ってあげなさい。それが親というもんだ・・・・」
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