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「島行って食うもんもろくになかったんだろ?まあ、こっちも空襲で何もかもが焼けちまったが・・・・・・」
皆、普通を装っているが、どこかよそよそしい。
「まあ、毒が抜けるには時間がかかるもんだ。・・・・ゆっくり休むのが一番の薬だろう」
「ご心配おかけして・・・・申し訳ない・・・・・・」
巌は背を丸めて頭を下げるばかりだった。自分の変貌に気づいていたのは彼自身だったからだ。
自分が帰ってこられたのはただ運が良かっただけだ。いや、運が悪かったのかもしれない。生き恥を晒すことになるくらいなら、彼らと共に土に返るべきだった。
軍の病院で手当を受けていた頃は家に帰ることを強く願った。だが、いざ帰郷してみれば自分の居場所はなくなっていた。
四年ぶりの家には千代と幼い娘。それを養っていけなければ、ただの荷物になるだけの存在。
巌は働ける状態ではないこの身体をどうにか早く治そうと必死だった。だが焦れば焦るほど苛立ち、結果が裏目に出る。
そんな男に笑顔などなかった。明るく振る舞うこともできなかった。
毎晩自問自答を繰り返しては悪夢にうなされる日々が身体の回復の妨げになっていた。
それでも現状を受け入れることでしか、道が残されていないことも分かっていた。
「巌ちゃん、すいとんは食べられる?」
「・・・・・・はい」
八重子は戦前からここの食堂を切り盛りしていて、少ない食糧を掻き集めては営業を続けていた。
空襲が酷くなり、閉めていたお店を使って今日の会を開いた。一年ぶりに調理場に立つ彼女の頬は自然と上がり、鼻歌を口ずさんでいる。
「島では何を食べていたんだ?」
巌と年が近い木元。彼には持病があり、召集は免れて数年間地方へ疎開をしていた。
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