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その様子を黙って見ていた千代は肩に掛かっているだけの落ちそうな黄土色の外套をそっと剥がすと、そこには巌の骨張った包帯だらけの背中があった。
この寒空の下、何故上着一枚しか着ていないのだろう、と千代は不思議に思いながら右腕に目を向けた。
バサッ
「ああ・・・・」
外套を床に落とすと同時に声を出す千代に巌が振り向いた。彼女は自分の右腕があった辺りを見ていた。
「ああ・・・・爆弾で吹っ飛んだ・・・・」
それだけ口にして巌は姿勢を戻し、靴を引っ張り無理矢理脱がすと立ち上がった。
「悪いが、眠りたい・・・・」
上着を拾っていた千代はその巌の一言に顔を上げて頷いた。
「・・・・今、すぐお布団を敷いてきます」
千代は急ぎ足で奥の部屋に向かった。
玄関から廊下を真っ直ぐ行った突き当たりの部屋が寝室になっている。八畳程の和室に押し入れがあり、千代はそこから布団を取り出した。
パサッ
押し入れから布団と一緒に出てきたのは灰色のネクタイだ。
「千代・・・・」
巌の声がすると千代は慌てたようにそのネクタイを着物の袂に仕舞い込んだ。
「千代・・・・どうした?」
開いている障子から、布団を横に座り込んだ千代の姿が見える。心配する巌の方を向き、千代は口を開いた。
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