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「・・・・ごめんなさい。・・・・・・急に帰ってきたから、気が動転してしまって・・・・本当に驚いて・・・・・・・・」
涙を拭くような素振りをする千代。その彼女の正面に巌はあぐらを掻いて座り込んだ。
「・・・・・・千代、すまない。帰国してすぐ、手当てを受けていて連絡ができなかった。背中一面に火傷を負って・・・・・・どうにも動けなかった」
表情が乏しい巌の顔を千代は見た。生気がなく、ただの抜け殻のような印象を受ける。
「それと・・・・すまんが、固い飯が食えない。ずっとろくなもんを食ってなかったせいで、食べ物を受けつけない。しばらくは粥で慣らしたい」
巌の言葉に千代は頷き、布団を敷き始めた。
「・・・・子供はいつ産んだ?」
千代は一瞬手を止めてから質問に答えた。
「巌さんが召集されてすぐに分かって・・・・・・一年後に」
「ここも空襲があったと聞いたが、良く無事に育てたな」
「児嶋先生に診て頂いて、色々と親切にして下さって」
「そうか・・・・児嶋先生が・・・・」
話している間に千代は布団を敷き終え、巌の前で正座した。
「ゆっくり休んで疲れを取って下さい」
「ああ・・・・・・ありがとう」
巌が布団に入って横になるのを見届けて、千代は部屋を出た。
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