耐ヘ

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 そう言いながら児嶋は木の机に缶二つを放った。  カランッ 「ワセリンもチンク油も効くような火傷ならいいんだが」 「いえ・・・・充分です。これで足りますか?」 「ああ。しかし、あんたんとこももう底を尽く頃だろう?金は食糧にとっておくのがいい」  そう言って児嶋は差し出された銭を千代の手の中に入れ、それを蓋するように自分の手の平で塞ぎ、軽く握った。 「でも、それじゃあ・・・・」  千代が言いかけて徐に児嶋は彼女を抱き締めた。 「千代・・・・・・私の気持ちは変わらんよ。こんなことで良ければいつでも・・・・来なさい」  ガラッ  玄関の木戸が開く音がして児嶋は姿勢を戻し、廊下を覗いた。 「ああ、お菊さんか?いやあ、久しぶりだなぁ。元気だったかい?」 「児嶋先生、腰もだいぶ良くなって。ありがとうございました。これ、少ないけど・・・・」  児嶋はここら辺で残った唯一の医者だった。内科専門であったが、戦時下ではそんなことも言っていられず、火傷治療や傷の手当て、時にはお産の手伝いもしていた。 「あの・・・・私はこれで・・・・」  丸缶を風呂敷袋に入れて玄関先の児嶋と女性にお辞儀をする千代。静かにそこを通り抜けて千代は去って行った。 「まあ、綺麗な女性ね。・・・・児嶋先生、どういうご関係?」  お菊は悪戯に聞いてみたが、児嶋は千代の後ろ姿に魅入っているようだった。
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