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その頃、中津家の寝室でなかなか寝つけずにいた巌。火傷と腕の痛みと脳裏に焼きついた記憶に苦しんでいた。
目を瞑れば瞼の裏に閃光が見え、耳には銃弾や爆音が鳴り響く。
その度に鼓動は高まり、息を荒げ、死んでいった仲間の顔が浮かぶ。
「くそっ!」
左腕を使って身体を起こし、苛立ちからそう叫んだ。目を開けると驚いた顔の千夏が立っている。
「・・・・すまない」
千夏に目を合わせると彼女は部屋を出た。
巌は額から出る脂汗を手で拭った。
もう戦争は終わったというのに、どうしてこうもうなされるのか。
眠れば夢の中で未だに戦っている。そんな状況に精神が休まる時間がなかった。
「ああ・・・・」
溜め息に紛れて声が漏れ出た。その度に、息を吸う度に背中と腕が痛む。
眉間にしわを寄せて俯く巌を千夏は障子の隙間から覗いていた。包帯だらけのやせ細った身体の右腕はなく、茶色く染み出た血に白い布が汚れている。
「君は・・・・歳はいくつだ?」
巌と目が合うとそう話しかけられた。千夏は一瞬驚いて障子の影に顔を隠し、そっとまた覗いた。
「・・・・三歳・・・・」
小さい声で返す千夏。巌は静かに頷いた。
「・・・・・・そうか」
「おじさんは?」
千夏は話ながら障子を開けて巌の様子を見ながら近づいた。
「・・・・二十八・・・・」
巌の返答に千夏は両手の指を折って数え始めた。
「んー、私よりいっぱい生きてる」
十を数えた時点で彼女はそう口にした。
「・・・・ああ」
相槌を打つ巌の目の前まで千夏は近づいた。
「・・・・けが、してるの?」
「・・・・ああ」
「・・・・痛い?」
「・・・・ああ」
包帯が巻かれた巌の背中にそっと触れてみたが、冷たい千夏の手には温かく感じた。
「ぐっ・・・・」
巌はより一層険しい表情を見せる。
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