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耐ヘ
日本から遠く離れた異国の島でも数ヶ月に渡る戦闘に終止符が打たれた、1945年8月。日本の敗北が決まった。
物資が届かない過酷な状況で、兵士たちは飢えを凌ぐために草や蛇などを捕って食べていたという。
戦いに参加した兵士のうち、生きて帰れたのは僅かな人数だった。
中津巌もその一人。
失った右腕の傷が治まらないまま、異国の地から日本へと戻ってきた。
季節は冬を迎え、年明けの準備に追われる人々。故郷にも戦争の爪痕が残るものの、活気良い声が路地に行き交う。
壊れた家を修復する者や食糧を売る者などで賑わっているように見えた。
四年ぶりのその地に自分の家が残っているのかさえ巌には分からなかった。
この道が家に続いているのかさえも分からず、記憶を頼りに歩を進めていた。
途中立ち止まり見上げ、残っていた食堂の看板に目を向けているとそこから年配の女性が出てきた。
「・・・・八重子さん?」
巌はしわがれた小さな声で女性に話しかけた。
彼女は怪訝そうな顔で軍服に身を包む巌を見る。
「あんた・・・・・・誰だい?」
見知らぬ人のように冷たくそう言い放つ彼女に巌は言葉をつけ加えた。
「巌です・・・・中津、巌・・・・・・」
帽子を脱いではっきりと顔を見せても、彼女は渋い表情をする。
「巌・・・・ちゃん?本当に?」
それでもまだ疑われた。無理もない。
見る影もない程に巌は痩せこけていた。
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