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序章~狐型の仮面~
風が強い。
宵闇。ビルの屋上に一人の影が、身を潜めながら立っていた。
「目標……、確認です」
少女の声だった。
呼吸を殺しながら、少女と思われる一人の影はじっと『標的』を眺める。
大きなビルの、エントランスから出てきたのは五十代前半の初老の男だった。
そしてその男の周りには、複数の護衛らしき人物が立っていた。
影は、両太ももから何かを取り出す。
それは二本の鋭いサバイバルナイフだ。
その時、ゆったりとした足音が耳に入る。
だが、その音を聞いておきながら、少女と思われる一人の影は振り返らなかった。
そして、その足音が自分の隣に立つのを待ち、やがて少女と思われる影は口を開く。
「ほんとうに……、このやり方で……」
静かに、その影は問う様に口を開いた。
「無論だ……」
隣に立った方は男の声だった。
そしてまるで当たり前かの様に答えた。
「あの男には、鉄槌を下さなければならない。それぐらいの仕打ちをさせられてきたのだからな」
少女と思われる者は、それを聞いて紡ぐ様に黙った。
「判りました……」
そう言い、眼鏡を掛けていたのか、その者は眼鏡を外す。
男は静かに笑い、
「では早速行ってもらおうか。正体を隠す為の仮面だ」
手渡してきたのは、狐型の仮面だった。少女と思われる者は、静かにそれを受け取り、仮面を付け始める。
「殺すなよ……?まずは生け捕りにするのだ」
仮面を付けた者は、コクンと静かに頷き二本のサバイバルナイフを手に、素早くとビルの屋上から飛び下りる。
その者は跳躍し、別のビルへと飛び移る。
並の人間業ではない動きをしながら『標的』に近ずく。『標的』に近ずくまでの時間はわずか十秒弱。
ものすごいスピードで狐型の仮面をした者は地面に下り立ち、『標的』がいる所へと砲弾の如く駆け走る。
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