序章~狐型の仮面~

1/1
前へ
/103ページ
次へ

序章~狐型の仮面~

風が強い。 宵闇。ビルの屋上に一人の影が、身を潜めながら立っていた。 「目標……、確認です」 少女の声だった。 呼吸を殺しながら、少女と思われる一人の影はじっと『標的』を眺める。 大きなビルの、エントランスから出てきたのは五十代前半の初老の男だった。 そしてその男の周りには、複数の護衛らしき人物が立っていた。 影は、両太ももから何かを取り出す。 それは二本の鋭いサバイバルナイフだ。 その時、ゆったりとした足音が耳に入る。 だが、その音を聞いておきながら、少女と思われる一人の影は振り返らなかった。 そして、その足音が自分の隣に立つのを待ち、やがて少女と思われる影は口を開く。 「ほんとうに……、このやり方で……」 静かに、その影は問う様に口を開いた。 「無論だ……」 隣に立った方は男の声だった。 そしてまるで当たり前かの様に答えた。 「あの男には、鉄槌を下さなければならない。それぐらいの仕打ちをさせられてきたのだからな」 少女と思われる者は、それを聞いて紡ぐ様に黙った。 「判りました……」 そう言い、眼鏡を掛けていたのか、その者は眼鏡を外す。 男は静かに笑い、 「では早速行ってもらおうか。正体を隠す為の仮面だ」 手渡してきたのは、狐型の仮面だった。少女と思われる者は、静かにそれを受け取り、仮面を付け始める。 「殺すなよ……?まずは生け捕りにするのだ」 仮面を付けた者は、コクンと静かに頷き二本のサバイバルナイフを手に、素早くとビルの屋上から飛び下りる。 その者は跳躍し、別のビルへと飛び移る。 並の人間業ではない動きをしながら『標的』に近ずく。『標的』に近ずくまでの時間はわずか十秒弱。 ものすごいスピードで狐型の仮面をした者は地面に下り立ち、『標的』がいる所へと砲弾の如く駆け走る。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加