第一章~遊びの約束~

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第一章~遊びの約束~

1. 季節は五月中旬。 日増しに色濃くなっていく緑が、近づいてくる夏を伝えようとしていた。 澄み渡る青空に、ぽかぽかと感じる温かさ。お昼時に教室や食堂ではなく、外で昼食をとる生徒は少なくはなかった。 「はぁーっ!気持ちぃぃーっ!」 機嫌のいい声で口を開くこの少女もまたその一人だ。 名は"椎名杏梨"(しいなあんり)。 化粧がいらない程度に整った綺麗な顔立ちをしたショートヘアーの茶髪の少女は、近くの椅子と机を確保し、巾着弁当を広げ始める。 「わぁーっ、これ全部椎名さんが作ったのっ?」 前髪の右側に花飾りのペンダントを付けた少女、"奈月ゆか"(なつきゆか)は声を上げる。 少女の弁当には野菜の天ぷらが入っていて、主食は白米ではなく混ぜご飯。 何だかものすごく美味しそうに見える。 「ほんと、相も変わらずねぇ」 やれやれと言った調子で、隣の席に座っているポニーテールの少女は口を開く。 彼女の名は"八木原千絵"(やぎはらちえ)。 目の下にある泣きぼくろが特徴的な少女は、自分で買ってきたコンビニのおにぎりの袋を開け、一口かじり始める。 ゆか「いいなぁー。私もこんな風に作れたらいいのに」 そう言い、ゆかも手作り弁当を作っていたのか、可愛らしい布袋を取り出す。 杏梨「かわいー!奈月さんだっておいしそうな弁当だよ!」 ゆか「そ……そんな事ないよ!私なんか全然だよっ」 ゆかの顔が赤くなり、口をモゴモゴさせる。 ゆか「私はそんな家事も得意じゃないし、料理もそんなだし、駆君だって……、私の弁当とか食べてくれないし……」 溜め息を吐きながら、自分の作った弁当をモゴモゴと食べ始める。 杏梨「赤嶺君の事、好きなんだね!」 ゆか「むごッ!なッ、何言ってるの!?」 杏梨「へ?違うの??」 ゆか「違いますっっ!!」 そう言いながら、ゆかの頬はさらに赤くなる。 千絵「あら?でも中々の味付けよ、これ」 ヒョイ、と千絵はゆかが作った煮物を取って食べ評価をあげる。 ゆか「そんなっ……、わたしなんか……っ」 そう言い、少女はまた口を紡ぐ様にモゴモゴとさせる。
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