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屋上は程好い風が吹いていた。夏には珍しく微妙に涼しい。その屋上に彼は立っていた。にこやかにされど威圧感を感じる振る舞いで。
遥子「何よ、用って。」
冥「はい。率直にいいますと・・・さっさっとその体から出ていって欲しいのです。【心鬼】さん。」
遥子「はぁ?」
遥子には何を言われたのかわからなかった。【心鬼】。前に自分が交戦したあいつだろうか。だが、あれが憑いているのは眼鏡の男だ。自分ではない。なので、当然遥子はキレる。
遥子「訳のわからないことを言わないでよ!私は白狐よ!鬼なんかと一緒にしないで!」
冥「ええ。だから、言ってるんですよ?
貴女に取り憑いた、【侵心鬼】にね。」
【侵心鬼】ーしんしんきーとは【心鬼】がある程度の生気を吸収し成長した存在だ。最下級程度の力しかなかった【心鬼】の上、【白狐】と互角に戦える中級にランクアップしている。それに遥子は憑かれたと言う。
遥子「嘘よ!私は鬼なんかに憑かれてなんか・・・「夢。」・・・は?」
冥「夢を見ませんでしたか?暗い空間で何かと話す夢を。」
遥子は絶句した。確かに昨日見ている。冥が言ったような夢を。体が震える。否定したいが、出来ない。
冥「恐らく、貴女の願い、いえ、この場合は欲望にしておきますか。それは友達を作ること。それに応えて【鬼】が貴女に催眠能力を与えた。だから普段話しかけない貴女が話しかけても誰も違和感を感じなかったのでしょう。貴女の人柄を悪く言うつもりはないですが、少なくとも人付き合いが悪かった貴女が直ぐに友達が出来ますかね?」
遥子は何も言えなかった。確かに考えて見るとおかしい。今まで話した事がない人間がいきなり話しかけてきて戸惑わないことは少ないのでは?そう思った。
遥子「っ。」
冥「分かっていただけたなら、早く【鬼】を手放すべきかと。」
遥子「・・・やよ。」
冥「?」
遥子「嫌よ!絶対嫌!喩えそれが本当だとしても!折角友達が出来たのに手放すなんて嫌!」
遥子は叫んだ。脳内に自分とは別の声が聴こえてくる。
『そうだ。殺れ。あいつはお前から友達を奪うぞ。殺ってしまえ。』
遥子「貴方を殺してでも!私は独りは嫌なの!」
遥子の周りを青い炎が包む。その中に僅かに赤い炎が混じっていた。遥子はフェンスを乗り越え家の屋根を伝いながら逃げ出した。
冥「ふぅ。困った方だ。」
冥はそう呟くと遥子の後を追った。
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