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美味しかったね。
うん、美味しかった。
そんな会話と共に店を出ると、意外にも空気は暖かくて。
見上げた先に桃の花。
薄紅色の五分咲きが街灯の明かりに照らされ、夜の空にぼんやり浮かんでいる。
結んだばかりのマフラーをするり外し、前を行く背中をちらと一瞥したなら、
いつもと変わらない、けれど、いつもとは違う。
それは私が好きになった背中。
好きになって、そして今はもう好きだった背中。
「それじゃ……」
振り返った彼の顔。
この少し困ったように笑うのを見ると、ちょっと。
本当にほんのちょっとだけど、揺らぐ。
けれど、それでも私は笑顔をつくる。
「うん、それじゃ」
それが最後の言葉。
私たちは今日、
彼氏と彼女を辞めたのだ。
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