1.夜空とクリコロの彼

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美味しかったね。 うん、美味しかった。 そんな会話と共に店を出ると、意外にも空気は暖かくて。 見上げた先に桃の花。 薄紅色の五分咲きが街灯の明かりに照らされ、夜の空にぼんやり浮かんでいる。 結んだばかりのマフラーをするり外し、前を行く背中をちらと一瞥したなら、 いつもと変わらない、けれど、いつもとは違う。 それは私が好きになった背中。 好きになって、そして今はもう好きだった背中。 「それじゃ……」 振り返った彼の顔。 この少し困ったように笑うのを見ると、ちょっと。 本当にほんのちょっとだけど、揺らぐ。 けれど、それでも私は笑顔をつくる。 「うん、それじゃ」 それが最後の言葉。 私たちは今日、 彼氏と彼女を辞めたのだ。
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