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(この聖力は……お父様の……!?)
〈よくも姫を……我が娘を……赦さん!!〉
雷(いかづち)のような怒号と共に崩れた壁の一角から姫の父、薔薇の妖精王が光のベールに包まれて姿を現した。
だが、それは姫の知っている父ではなかった。
激しい憤怒に縁取られたその顔は、娘の目から見ても恐ろしかった。
のみならず、彼の怒りに呼応するかのように、薔薇色の光がゴウゴウと長身の肢体の周囲に逆巻いていた。
「薔薇の妖精王。娘を奪い返しに来たか。さすがに凄まじい聖力だ。だが、そのまま攻撃すれば〈水晶宮界〉自体に影響を及ぼすぞ」
臨戦体勢に入りつつ、カーティスがどこか余裕の表情で彼を見あげた。
ようやくさるぐつわをはずして、姫はレイチェルの腕の中ではらはらしながら父の姿を眺めていた。
カーティスの言う通り、妖精王なる父の聖力は絶大なもの、それをすべて攻撃に変えれば〈水晶宮界〉の一部を滅ぼしかねない。
そして、それは精霊族の王たるカーティスにも言えることだった。
両者の攻撃が全力でぶつかれば、この城はもとより〈水晶宮界〉に甚大な影響を及ぼす。
姫は、いやな予感を覚えた。
例の予言が、ふっと脳裏を掠める。
気配を察したのか、レイチェルがスルリと姫から離れ、ふたりのもとに駆け寄ろうとした。
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