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姫は、ビクッと身をすくませた。
怯えた眼差しを、声のした方に向ける。
長身の男が、壁に背を預けて佇んでいた。
真紅の衣装に鮮やかな緋色のローブ、壁に溶け込むように立っていたので、気配すら感じなかった。
男の姿を目にした途端、姫の背筋が凍った。
どう言えばいいのだろう。
顔立ちそのものは、整っている。
しかし、名状しがたい邪悪な魔気がすらりとした肢体から滲み出、黒い霧となってその頭上に立ち昇っていた。
切れ長の瞳は凍てついた湖のようで、底知れぬ冷酷さを感じさせた。
この城の王だと……そして、姫を拉致した邪悪な精霊族の王だと、姫は一瞬で悟った。
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