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もうもうと土煙があがる中で、複数の白刃がきらめく。
鮮やかな剣技で男たちを斬り伏せ、見覚えのある若者が姫に駆け寄り、枷をはずした。
「姫、お怪我は……?」
利き手に抜き身の剣を携えたまま、美しい若者が姫の体を腕に抱きとめた。
涼し気な切れ長の瞳には、激しい憤りが燃えている。
囚われた姫の姿を見て、頭に血が昇っているようだった。さるぐつわのため姫が喋れないことにも気づかず、話しかけるほどに……
彼、レイチェルは姫付きの護衛騎士の中でも、1、2位を争う剣の遣い手だ。
そして、誰よりも姫を大切に想い、熱い忠誠を尽くしていることでも有名だった。
レイチェルが助けに来てくれればもう大丈夫……のはずなのに、この不安は何だろう。
助かったという気持ちよりも、不安と恐れはますます増大してゆく。
ひとつは、この尋常ならぬ揺れのせいだろう。
ただの地震とは思えない。
地鳴りを伴う凄まじい揺れ……のみならず、立ちこめる土煙の中にとてつもない聖力が渦巻いているのを、姫は感じとっていた。
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