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一陣の風の中に人の気配を感じて、姫は薄絹の胸もとをかきあわせ、闇の奥を透かし見た。
「誰……?誰かいるの……?」
もつれた舌から、容姿にふさわしい可愛らしい声が発せられる。
建ち並ぶ大理石の円柱と夜目にも鮮やかな真紅の薔薇が、月の光に蒼く濡れて存在しているだけで、どこにも人の姿はない。
(気のせいかしら……)
姫は、小さく息をついた。
過敏になり過ぎているのかも知れない。
あんな予言を聞いたから……
いやしくもここは薔薇の妖精王国の居城、曲者が侵入するはずがない。
城の最上階、北側と西側の棟をL字型に結ぶこの空中庭園は、大陸でも屈指の規模と壮麗さを誇っていた。
空中庭園というより、薔薇園と言った方が正しいかも知れない。
さまざまな彫刻が施された太い円柱と、色ごとに植えられた無数の薔薇が、巨大な迷路を形成している。
初めて訪れる者は、間違いなく迷ってしまうだろう。
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