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「大丈夫よ、アンジェラス。心配いらないわ。あたしのことはレイチェルが守ってくれるから……」
とろけそうな笑顔をアンジェラスに向けたまま、シャルディアラは軽くいなした。
本当は、自分の身ぐらい自身で守れると思っている。
だが、人前では騎士団長たるレイチェルを立てるべきだと、シャルディアラは思っていた。
「レイチェルが、ね……」
思い切り冷やかな眼差しで、アンジェラスはレイチェルを見た。
スッと細めた切れ長の目には、皮肉っぽい色が滲んでいる。
アドリアンに拐われそうになったところをレイチェルが助けてくれたと、シャルディアラは皆に説明していた。
あの、謎の精霊王のことは、誰にも話していない。
魔気をわずかも感じさせぬ邪悪な精霊族が存在するとしたら、シェリィの潔白を証明するのがますます困難になる。
邪悪な精霊族なら魔気をその身にまとっているはず、シェリィに魔気がないのは聖なる種族の証しだと、シャルディアラはこれまで主張してきた。
その信念が、根底から覆されてしまう。
謎の精霊王のことは誰にも話していなかったが、アンジェラスはシャルディアラの説明にどこか腑に落ちない様子だった。
勘の鋭い子だから、真実に近い推測を胸の裡に秘めているのかも知れない。
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