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「ふふっ……」
可愛いらしいシェリィの声に、シャルディアラはそちらに視線を向けた。
シェリィが、アンジェラスの肩に甘えるように両腕を絡めていた。
「お兄さまの髪も綺麗。きらきら~」
クスクス笑い、シェリィはアンジェラスの髪を細い指先ですいた。
そんなシェリィを、アンジェラスはいとおしそうにみつめている。
アンジェラスがこんな甘い顔を見せるのは、シェリィに対してだけだ。
「シェリィの髪もいい香りがする。お日さまの匂いだ」
アンジェラスはシェリィの青い髪に顔を埋めて、匂いを嗅いだ。
くすぐったそうに肩をすぼめて、シェリィは「ふふっ」と小さく笑った。
「行こう、シェリィ。いつまでもここにいるとレイチェルに苛められる」
甘やかな眼差しで幼い弟をみつめ、アンジェラスはシェリィの肩を抱いた。
「アンジェラスさまっ!!私はシェリィさまを苛めてなど……」
ムキになって言いつのるレイチェルを無視して、アンジェラスはシェリィの肩を抱いたまま部屋を出ていこうとした。
その華奢な背に、シャルディアラは思わず声をかけた。
「まだ公務があるんじゃなくて?シェリィはあたしが見ててもいいのよ」
薔薇の妖精王として、アンジェラスは多忙な日々を送っている。
午後の浅い時間に、公務から解放されるとは思えなかった。
メイドが付き添ってはいるが、シェリィが淋しがっているような気がしたのだ。
「午後の公務にはシェリィも連れてゆく」
ふりむいて、アンジェラスはきっぱりと言った。
涼し気な切れ長の瞳には、強い意志の光が宿っている。
アメジストの瞳の奥に、隠し切れぬ怒りが熾火(おきび)のように燃えていた。
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