第3章

5/41
前へ
/288ページ
次へ
シャルディアラは、ちらりと壁際に目をやった。 レイチェルが、苦虫を噛み潰したような表情でこちらをみつめている。 通常、従者は舞踏会場に入れない。 控えの間で待機するのが、一般的だ。 だが、レイチェルは高貴な上流貴族の出自、特別な扱いを受けていた。 シャルディアラが大勢の貴公子たちに取り囲まれるのを、レイチェルはいつも苦々しい表情で見守っていた。 シャルディアラが舞踏会に出席するのは邪悪な精霊族を退治するため、焼きもちなど焼かなくていいのにと、おかしくなってしまう。 恋をしたことがないシャルディアラは、知らなかった。 相手を好きになればなるほど、嫉妬の炎が狂おしく胸を焦がすということを………… ロマンティックな恋愛に、漠然とした憧れを抱いていた時期はあった。 16才の春の夜、緋竜の精霊族に拐われるまでは、年頃の娘らしい甘やかなロマンスをひそかに胸に思い描いていた。 しかし、苛酷な試練が、実際に恋を知る前にシャルディアラの運命を大きく変えてしまった。 今のシャルディアラは、恋をしたいなどと微塵も思っていない。 たとえ、緋竜の精霊王の呪いがなくても、同じことだ。 邪悪な精霊族を滅ぼしたい。 それが、シャルディアラの本懐だった。 あまりにも大きなその悲願の前に、恋愛感情などとても入り込む余地がなかった。
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!

380人が本棚に入れています
本棚に追加