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ノックの音がした。
とあるビルの一室に俺は部屋を構えていた。部屋といっても、俺の自宅ではない。俺の自宅はここから数キロ離れた場所にあるボロアパートだ。人は、ここを仕事場と呼んでいるが、俺はそうは思っていない。俺が普段、過ごしているボロアパートは騒音が集中できないので、新たにビルの一室を借りているだけのことだ。
俺はこの静かな部屋で朝から晩にかけて思考を巡らせている。できることなら、じっくりと真剣に考えたいのだが、どうしてもうまくいかない。
トントン。
再度、ドアをノックする音がする。その音に俺の思考は止められる。望んでもいないのに人がやってくるのだ。できることなら無視していた。だけど、人がいい俺は、尋ねてきてくれた人を無碍に追い返すこともできず、部屋に迎え入れてしまうのだ。
「実は、ご相談がありまして」
俺のところにやってくる人は、一様に同じことを言う。当然、俺も同じことを言う。
「相談といわれましても、俺はこうして部屋に籠もっているだけの、どうしようもない者です。とても、あなたの力にはなれません」
「それでも、構いません。どうか、話だけでも聞いてください」
相手の必死な様子に、結局は俺の方が折れてしまう。それに、相談といっても、大したことではない。この現代社会において、よくある悩みだ。
「・・・という訳でして、これから、どのようにして生きていけばいいのか。悩んでいるのです」
相談というのは、仕事がないのをどうすればいいのかと、俺に聞いてくる。俺に仕事を聞かれても正直、困る。
俺はいつも、そんな相談を持ちかけられると困り果ててしまう。力になってやりたい。しかし、
「そんな事を言われましてもね」
俺に何ができるというのだ。
「どうか、アドバイスを一つ!」
相手にせがまれ、俺は頭を捻る。年中、この部屋で思考を巡らせているだけの無職の自分にしてやれることは何もない。だからといって、この必死な相手に何もしてやれないのは、自分の良心が傷む。俺はテーブルに置いてあった手帳を手に取ると、
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