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「否定の言葉は言わせないよ。拒否も許さない」
あまりに傲慢で自分勝手なセリフ。
けれど、ヒナは驚きの方が強くて、言い返す術を完全に見失っていた。
「わかった?」
ヒナに見せつけるようにして舌舐めずりする樹の姿に、獣じみた彼の本性を見た気がする。
ヒナは子供のような嗚咽を漏らしてしまう。
「ボク以外、誰も見ちゃダメ。……好きになっちゃダメ。ボクだけを見て」
その言葉にヒナはハッとした。
樹を諦めさせる術はないか。
頭の中でグルグルと、何か無いか、諦めさせる何か有効な手は無いかと、色んな感情と思考が駆け巡る。
このままでは大変な事態に陥りそうな気がする。
切迫した何かに追い立てられるように、ヒナは焦るあまり深く考えることなく思いついたまま口を開いた。
「……い、樹くん、でも、でも、私、好きな人いるッ」
ヒナが放ったその言葉に、樹の顔から一瞬で表情が抜け落ちた。
大きく目を見開いて、そして、恫喝するような鋭さで、樹はヒナを睨み付ける。
「……ふうん、そうなんだ。もしかして、あの河居とか言う美術教師?」
ヒナはガクガクと頷いた。
ヒナにとって河居は、尊敬する美術教師という位置づけだ。
ただ、それだけ。
そこに恋愛感情などない。けれど、深く考える余裕はすでになく、ヒナは脊髄反射で樹の言葉に頷いた。
樹の凶行を止める術が思いつかなくて。
好きな人がいるなんて、咄嗟に口から出た嘘だった。
「くくっ。よくもそんな非情なセリフが吐けるね。あの変態教師が好きだって? バカにしてんの?」
樹の双眸に悋気(りんき)の炎が灯り、まるで自分の中にある凶暴な獣を押さえきれなくなるように、凶暴な眼差しでヒナを射る。
「あんまりヌルいこと言ってると、ボク、キレるよ?」
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