Ⅲ ~天使な悪魔~

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「否定の言葉は言わせないよ。拒否も許さない」  あまりに傲慢で自分勝手なセリフ。  けれど、ヒナは驚きの方が強くて、言い返す術を完全に見失っていた。 「わかった?」  ヒナに見せつけるようにして舌舐めずりする樹の姿に、獣じみた彼の本性を見た気がする。  ヒナは子供のような嗚咽を漏らしてしまう。 「ボク以外、誰も見ちゃダメ。……好きになっちゃダメ。ボクだけを見て」  その言葉にヒナはハッとした。  樹を諦めさせる術はないか。  頭の中でグルグルと、何か無いか、諦めさせる何か有効な手は無いかと、色んな感情と思考が駆け巡る。  このままでは大変な事態に陥りそうな気がする。  切迫した何かに追い立てられるように、ヒナは焦るあまり深く考えることなく思いついたまま口を開いた。 「……い、樹くん、でも、でも、私、好きな人いるッ」  ヒナが放ったその言葉に、樹の顔から一瞬で表情が抜け落ちた。  大きく目を見開いて、そして、恫喝するような鋭さで、樹はヒナを睨み付ける。 「……ふうん、そうなんだ。もしかして、あの河居とか言う美術教師?」  ヒナはガクガクと頷いた。  ヒナにとって河居は、尊敬する美術教師という位置づけだ。  ただ、それだけ。  そこに恋愛感情などない。けれど、深く考える余裕はすでになく、ヒナは脊髄反射で樹の言葉に頷いた。  樹の凶行を止める術が思いつかなくて。  好きな人がいるなんて、咄嗟に口から出た嘘だった。 「くくっ。よくもそんな非情なセリフが吐けるね。あの変態教師が好きだって? バカにしてんの?」  樹の双眸に悋気(りんき)の炎が灯り、まるで自分の中にある凶暴な獣を押さえきれなくなるように、凶暴な眼差しでヒナを射る。 「あんまりヌルいこと言ってると、ボク、キレるよ?」
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