Ⅰ ~近所の樹くん~

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         ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇  キッチンで忙しなく動くヒナを見つめながら、樹は不思議に思う。  ――――なんであんな分かりやすいアホな嘘に、ヒナは何度も引っかかるのか。  怪我なんてしていない。  そんなこと、普通すぐ気付くだろうに。  いつもいつも、今日みたいに階段から転げ落ちてみたり、散歩中の犬に不用意に近付いて噛みつかれたり、学校の女子からハブにされてもへらーっと笑っていたり。  昔から、樹にとってヒナという存在は謎だった。  樹は常に効率を重視した合理的な行動を好む。理に適わないことも無駄も嫌いだ。  けれど、昔から変わらず自分の興味の全てはヒナに向いている。  ヒナは、それら全ての対極にある少女なのに。  理に適わないことでも、無駄なことでも、良いと思ったらやってみて、結果、必ずと言っていいほど失敗する。  そして、懲りもせず同じ失敗を繰り返すのだ。  今度は上手くいくかもしれないでしょ? そう、満面の笑みを顔に乗せて。  全くもって効率的に動けないのだ、ヒナは。  自分のリズムを決して崩さない。失敗してもめげないし、学ばない。  筋が通った、そう。  ――――筋金入りのバカなのだ。
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