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キッチンで忙しなく動くヒナを見つめながら、樹は不思議に思う。
――――なんであんな分かりやすいアホな嘘に、ヒナは何度も引っかかるのか。
怪我なんてしていない。
そんなこと、普通すぐ気付くだろうに。
いつもいつも、今日みたいに階段から転げ落ちてみたり、散歩中の犬に不用意に近付いて噛みつかれたり、学校の女子からハブにされてもへらーっと笑っていたり。
昔から、樹にとってヒナという存在は謎だった。
樹は常に効率を重視した合理的な行動を好む。理に適わないことも無駄も嫌いだ。
けれど、昔から変わらず自分の興味の全てはヒナに向いている。
ヒナは、それら全ての対極にある少女なのに。
理に適わないことでも、無駄なことでも、良いと思ったらやってみて、結果、必ずと言っていいほど失敗する。
そして、懲りもせず同じ失敗を繰り返すのだ。
今度は上手くいくかもしれないでしょ? そう、満面の笑みを顔に乗せて。
全くもって効率的に動けないのだ、ヒナは。
自分のリズムを決して崩さない。失敗してもめげないし、学ばない。
筋が通った、そう。
――――筋金入りのバカなのだ。
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