Ⅵ ~ライバル参戦~

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「……そっか。そんな事があったんだね。じゃあヒナは、河居センセが嫌いになったの?」  樹の声に、ヒナは大きく頷いた。  その瞬間、樹の双眸が狡猾な色を刷き、口角が弓なりにクッと上がる。 「ヒナの言う通りだね。抵抗できない女の人襲うなんて、あの男はケダモノだ」  河居を非難しながらも、樹は嗤いを噛み殺すのに必死だった。  ヒナには可哀想な思いをさせた。気の毒だとは思う。  でも、河居に対する想いを、単純でありがちな『憧れ』から『恋』に変化させるわけにはいかなかった。不穏な種は、芽が出る前に摘み取る必要がある。  だから、樹は後悔などしないと決めたのだ。 「私、がっかりしたよ。……ホントに」 「そうだね。もう河居先生には近付かない方がいいよ。クラブもしばらく休んだほうがいい」 「……うん。それがいいよね、きっと」  樹の忠告にヒナはしゅんと項垂れた。  恐らくヒナは、絵が描けなくなることを悲しく思っているんだろうと、樹は冷静に判断する。 「大好きな絵は家で描いたら良いよ。これからはずっと、ボクと一緒に」  ね? と、樹は熱い口調でかき口説く。  ヒナは寂しそうな笑みを浮かべ、こくりと頷いた。  悄然と肩を落とし俯くヒナに、樹は憂いの混じる眼差しを向ける。  ヒナにわからないよう小さく吐息を零すと、樹は話題を変えるべく顔を上げた。  そして、一番聞きたかったことを口にした。 「ボク、ヒナに聞きたいことがあったんだ。さっきの類って男――――ヒナの何?」  樹の問いに、ヒナは小さく微笑んだ。 「類ちゃんはクラスメイトだよ」 「……違うって。それはさっき聞いたから。だから、アイツが好きとか……まさかとは思うけど、彼氏でしたなんて言わないよね?」  小首を傾げたいとけない仕草で、樹は再度問う。けれど、彼の眸には隠しきれない焦燥がちらついていた。
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