Ⅵ ~ライバル参戦~

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「ただいま! お母さん?」  玄関扉を開けたヒナは、そこに明かりが付いていることに嬉しくなる。  凍てついたように静かな部屋の明かりをつけてまわるのは、いつも自分一人だけだから。  ヒナは一人でないことを確認するように、恐る恐る母を呼んでみた。 「ああ、おかえりーヒナ」  陽気なその声に、ヒナの顔がぱあっと輝く。  毎回のことだけれども、母がいてくれるだけでヒナは嬉しくて落ち着かなくなってしまう。  キッチンに立つ母に、ヒナは甘えるように、先ほど感じた寂しさを紛らわすようにして、ピトッとすり寄った。 「もう、ヒナは相変わらず甘えたねえ。そんなんでちゃんと樹くんに絵、教えてあげられてるのかしら」  どこか嬉し気に微笑む母に、ヒナはちょっと考える。 「樹くんは何も言わないけど、どうなのかな?」 「それをお母さんに聞かれても困るなー」  微苦笑を浮かべる母に、ヒナもつられてへらりと笑う。 「お母さんがいない間、ちゃんと樹くんの言うこと聞いてた?」  母の問いに「うん」と頷いたものの、ヒナは「ん?」と眉間にシワを寄せた。 「お母さん、それ、ちょっとおかしくないかな」 「なにが。あんたより樹くんの方がよっぽど世慣れてるわよ」  よなれ? 聞き慣れない言葉に、ヒナの頭には疑問符が飛ぶ。  自分を見つめたままポカンと口を開け放つ娘の様子に、母はうーんと頭を抱えてしまった。 「とにかく。お母さんがいない間、分からないことがあったら樹くんに聞くと良いわ。あの子はヒナが思うよりずっとしっかりしてるから」  そう言って、どこか困ったように含み顔で笑う母に、ヒナはぷぅと頬をふくらませる。  それからヒナは、「もー引っ付きまわって鬱陶しい! さっさとお風呂行きなさい!」と一喝されるまで、小さな子供のように母の後を着いてまわり彼女を困らせてしまうのだった。
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