Ⅵ ~ライバル参戦~

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 母に怒られてしまい、ヒナはトボトボとお風呂場へ向かう。  脱衣所で服を脱いだ時、身体中に点在するじんましんの痕をヒナは目で追ってみた。  胸に浮いた跡を指先でなぞるように辿ってみる。じんましんの痕は、少しずつ色が薄くなってきていた。  治ってきたのだと思い、ホッと胸を撫で下ろす。  樹に害がなくてよかった。自分だけで済んでよかった。  心からそう思う。  そして、ヒナは心の声を口にした。 「樹くんがいてくれてよかった」  家に帰ったら、いつもひとり。  誰もいない家は冷たくて、寂しくて、自宅へ帰る足が鈍ってしまうほどだった。  世界の端っこにいるみたいに静かなその空間が、ヒナは大嫌いだった。  けれどここ数日は樹が泊まってくれたから、寂しさを感じることはなかった。  樹の態度に、言葉に、戸惑うことは多々あるけれど、自分の寂しさを樹が理解してくれていて、その上で傍にいてくれたことが、何よりヒナは嬉しかった。  湯船につかりながら、ぼんやりと考えてみる。  樹はヒナを恋愛対象としてみていると言っていた。  自分はどうだろうかと自問自答してみる。 「……私は、今まで通りがいいな」  毎朝一緒に学校へ行って、たまに樹が遊びに来てくれたり、ヒナが呼び出されて彼の家へ行ったり、今まで通りそんな関係がいい。  聡くて口達者な樹に敵うものなど何一つ持たない自分だけれど、一緒にいてとても楽しいし、ホッとする。  片微笑むあの皮肉っぽい笑みも、ドキドキと落ち着かなくさせる意地悪な言動も、とても彼らしい。  そんな樹をヒナはとても好きだと思う。
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