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母に怒られてしまい、ヒナはトボトボとお風呂場へ向かう。
脱衣所で服を脱いだ時、身体中に点在するじんましんの痕をヒナは目で追ってみた。
胸に浮いた跡を指先でなぞるように辿ってみる。じんましんの痕は、少しずつ色が薄くなってきていた。
治ってきたのだと思い、ホッと胸を撫で下ろす。
樹に害がなくてよかった。自分だけで済んでよかった。
心からそう思う。
そして、ヒナは心の声を口にした。
「樹くんがいてくれてよかった」
家に帰ったら、いつもひとり。
誰もいない家は冷たくて、寂しくて、自宅へ帰る足が鈍ってしまうほどだった。
世界の端っこにいるみたいに静かなその空間が、ヒナは大嫌いだった。
けれどここ数日は樹が泊まってくれたから、寂しさを感じることはなかった。
樹の態度に、言葉に、戸惑うことは多々あるけれど、自分の寂しさを樹が理解してくれていて、その上で傍にいてくれたことが、何よりヒナは嬉しかった。
湯船につかりながら、ぼんやりと考えてみる。
樹はヒナを恋愛対象としてみていると言っていた。
自分はどうだろうかと自問自答してみる。
「……私は、今まで通りがいいな」
毎朝一緒に学校へ行って、たまに樹が遊びに来てくれたり、ヒナが呼び出されて彼の家へ行ったり、今まで通りそんな関係がいい。
聡くて口達者な樹に敵うものなど何一つ持たない自分だけれど、一緒にいてとても楽しいし、ホッとする。
片微笑むあの皮肉っぽい笑みも、ドキドキと落ち着かなくさせる意地悪な言動も、とても彼らしい。
そんな樹をヒナはとても好きだと思う。
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