Ⅵ ~ライバル参戦~

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 色々な物事の造詣も深く、年下なのに誰よりも頼りになる存在。  今日だってヒナのことを気遣って、自分の身丈ほどもある大きな鞄を持ってくれようとした、優しい少年。  樹が泊まりに来てくれたのも、ヒナの母親の出張期間が長くなり出したから、ひとりぼっちになるヒナを心配してくれたからだろう。  そっけない態度や辛辣な言葉で誤解されがちだけれども、人を思いやれる優しい少年だとヒナは知っている。  樹といると、ヒナはぬるま湯に浸るような安堵感に包まれる。  それはとても居心地の良い関係に思えて、だからこそ、そんな関係が変わるのが怖い。  今のまま、ぬくぬくとした優しい関係でいられたら。  そんな甘えが出てきてしまう。  ――――だって、そんな優しい関係でいられる時間は、あと少ししかないんだから。  もう少し時が経てば、きっと同世代の女の子に樹の興味が向くだろうことは、火を見るより明らかだ。  今は身近にいるヒナに興味が向いてしまっているけれど、それは一時の気の迷いだとヒナは知っている。  近い未来、樹は同世代の女の子と本物の恋をするだろう。  それは自然な成り行きで至極当たり前なこと。  そう考えて、胸がギシリと軋んだ。  ムカムカとした黒い感情がわき上がってきて気持ちが悪くなる。 「……これは、気の迷い、なんだよね」  ――――樹の感情がそうであるように。  痛む胸を拳で押さえながら、ヒナは小さく呟いた。  落ち着かない不透明な感情に支配されて、すでに身動きが取れなくなっている。  ヒナは想いを吐き出すような深い溜め息を零した。 「……なにこれ、わけわかんないよ……」  抜け出せない迷路に迷い込んだように、心が深淵へと沈み込んでゆく。  明確な答えを見いだせないまま、ぬかるみに嵌まって抜け出せない心と同じく、ヒナは湯船にぶくぶくと顔を沈めた。
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