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翌朝、ヒナは鉛のように重くなる足を叱咤してなんとか家を出た。
そして、いつも通り非常階段で手を振る樹を見た瞬間、胸がざわりと音を立てた。
ヒナの足がピタリと止まる。
足を止めたヒナを心配して近付いてくる樹の姿に、胸の鼓動がみるみる早くなる。
激しく波打つ心臓を落ち着かせようと深呼吸をした。
「おはよ、ヒナ。あれ、なんかヘンな顔してるね?」
「へっ、へヘンかな!?」
みっともないほどにどもってしまい、ヒナは慌てて口に手をあてた。
恥ずかしさに小さく身体を縮め、俯いてしまう。
「うん、ヘンだね。顔、真っ赤になってるし。ふふっ」
樹は弾むような声で「良い傾向だ」と呟き、上機嫌に何度も頷く。
真っ赤になるヒナをのぞき込むように見つめてくる樹の視線が痛くて、羞恥に居たたまれなくなる。ヒナの足が樹を追い抜き、小走りになる。
樹を振り払うほどの速さで、ヒナはマンションを出た。
「くくっ。ヤバ、可愛すぎだよもう。ヒナ、自覚したんだね?」
期待の混じる樹の声に、ヒナがバッと振り向いた。
その時だった。
聞こえてきた可愛らしい声に、ヒナの足がピタリと止まる。
「樹くん!」
――――うわあ、お人形さんみたい。
ヒナは樹を呼び止めた少女に目を奪われた。
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