Ⅵ ~ライバル参戦~

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         ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「あっ、この、ヒナ! 待ちやがれッ!!」  逃げたヒナを捕らえようと伸ばした樹の手が、空(くう)を切る。 「逃がさないよ! 樹くんッ」  杏璃にベルトを掴まれガクリと体勢を崩した樹は、恨めしい眼差しで振り返った。 「……やってくれたね、杏璃。せっかくボクに傾きかけてたのに」 「アンタだけ大団円、ハッピーエンドになんてさせないわ」  わかってるんでしょ? と、杏璃は烈火の如く怒りに燃える眼差しを樹へと向ける。 「河居センセ――――柊ちゃん学校クビになったら……アンタどうしてくれんの!? あともうちょっと追い詰めたら、柊ちゃん、あたしにオチてたかもしれないのに!」  口惜しいとばかりに、杏璃はイライラと爪を噛む。  昨日、樹の担任教諭である飯島凜が河居に組み敷かれている時に、ヒナのクラスメイトの間宮純人が現れ、乱闘騒ぎになったそうだ。騒動に気付いた他の教師が止めに入るまで、河居はサンドバッグのようにして純人に殴られていたという。  その後、間宮純人は意識を失った飯島凜を、周りの制止を振り切りアパートへ連れ帰った。そして、美術教諭の河居は、自主的に自宅謹慎していると樹の駒の一人である初等部教諭に今朝確認した。  現時点では、非があるのは飯島を襲った河居と言うことになっている。  なので、河居を慕い続けている杏璃が修羅の妄執を晴らすべく、わざわざ自宅マンションまでやってきたのだと、樹は白けた思いで目の前の美少女を一瞥した。 「まあ、あんだけ騒ぎ大きくなるなんて、予想外? 河居の野郎、飯島センセの今カレにボコられて、乱闘騒ぎにまで発展しちゃったらしいしねえ。飯島センセって大学時代、河居の元カノだったって聞いてるし、痴情のもつれで処分されんじゃないの?」  軽い口調で、樹は興味ないとばかりに他人事のように語る。
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