Ⅵ ~ライバル参戦~

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 樹の担任である飯島凜は、11年近く前に頻発した児童わいせつ事件の被害者だ。  襲われた当時、彼女は樹達と同じ小学6年生だったと聞く。  その場には、飯島凜の幼馴染みでヒナの同級生・間宮純人もいたそうだ。  たまたま通りがかった高校生達に飯島凜が助けられた時、彼女は乱暴され瀕死の状態だったという。  それから後のことは、精神科への通院履歴があったくらいで調べても何も出てこなかった。  過去の惨劇が原因で、彼女がトラウマを持っていることは間違いない。  樹はそう確信していた。  だからこそ、杏璃の写真を使わせて貰おうと目論んだのだ。  杏璃が河居を襲った時の、あの写真。  もちろん未遂だが、あれを撮影したのは樹だった。  何かあった時の脅しのネタになると、データを取ろうとしたら杏璃に阻まれてしまった。  だから今回、杏璃に写真を送るよう甘言を弄し、彼女を騙したのだ。  杏璃には、河居の元カノである飯島凜と彼が再び親密になってきている、もしかしたら復縁するかも知れないと追い詰め、データを渡すよう迫った。  あの写真は、杏璃が河居を襲っている一方的なものだったのだが、成人男性に女児が組み敷かれて見えるそれは、誰に聞いても「児童わいせつ」ととれるシロモノだった。  あれを、トラウマを持つ飯島凜が見てしまったら。  きっと彼女は、写真に写った杏璃と暴行された自分の過去の姿が重なり、平静さを失うだろうと樹は考えた。  何らかの修羅場が予想された。  泣き叫ぶ飯島凜と河居の姿ををヒナに見せることが出来たら。  ヒナは、河居が彼女に何かしたと思うに違いない。  ――――飯島センセは、河居に襲われてたんじゃないの?  無抵抗の女を襲うような卑劣な男なのだ、河居という男は。  樹はそう言うつもりでいた。  だけれども、思いの外都合良く事が動いてくれた。  樹が何かを言うまでもなく、ヒナは河居を嫌ったのだから。
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