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Ⅶ ~交錯する想い~
Ⅶ
「……はあ」
魂が抜けかかったみたいにフラフラと覚束ない足取りで教室へ入ったヒナは、自分の席に座ると、片肘をつき、今日何度目かの溜め息を吐いた。
『あたし樹くんの彼女です』
先ほどの映像が頭を過ぎる。
樹の彼女を名乗った少女は、小さな顔に大きな猫目が印象的な美少女だった。
おっとりしてみえる美少女は、口調は乱暴だったものの、まさに深窓のご令嬢、もしくはお姫様といった佇まいで、ヒナは物怖じしてしまった。
毛先だけを縦巻きにカールさせたツインテールが風に流されて揺れる様は、息を呑むほどに可愛らしくて。
――――お似合いだったな。
お人形のような杏璃と王子様然とした樹。
ふたりが並んだ姿は、まるで物語に描かれた姿絵みたいで、嫉妬してしまうほどにお似合いだった。
――――え? ……嫉妬?
ハッと目を見開く。
胸に過ぎった黒い感情に、ヒナは驚いた。
ざわめく胸をギュッと押さえて、俯いてしまう。
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