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「私、樹くんが大きくなったら、おばちゃんになってるよ」
「いいんじゃない? だってボクはヒナが良いもん」
「ありがと。でも、私はダメだな」
賢く見えない、どこか舌っ足らずな口調のくせに、ヒナははっきりと言い切った。
「……なんで?」
「私は弟とは結婚しないよ」
カッと頭に血が上る。
ヒナのセリフに、このまま暴れ出してしまいたい衝動に襲われてしまう。
樹は眉根を寄せてグッと耐えた。
「……弟違うし」
「そうだね。でも、私にとっては昔っから、樹くんは大切な弟だから」
瞬間、樹の顔が凍り付く。
無神経な女は、樹が一番聞きたくない言葉を吐いたその口で、一番好きなほんわりとした柔らかな微笑みをその唇に浮かべた。
――――弟って何だ。それは逃げじゃないのか。
ヒナは分かってない。
こんなにも必死になってアピールしてるのに。
本当にバカな女。
確かに自分はヒナよりずっと年下かも知れない。
けれど、想う気持ちに年の差なんて関係あるのだろうか。
自分の両親だって11歳の年の差がある。
それこそ、母が小学1年の時、父は高校2年だった。
出逢った当時に恋に堕ちていたとしたら、それはそれでマズいことになるかも知れないが、大人となった今では誰も何も言わないじゃないか。
樹は痛む胸を拳でグッと押さえた。
「ちくしょ」
――――鈍感女め。よくもボクの気持ちを否定する言葉を吐いたな。
「……絶対思い知らせてやる」
樹はとろとろと作業を続けるヒナをひたと見据え、彼女に分からせる策はないかと、頭を巡らせた。
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