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――――私、あの子に嫉妬したの?
呆然と動きを止めて、ヒナはくすんだ飴色の机を仰視する。
胸に広がる澱のように沈んだ黒い感情は、嫉妬なのだとはっきりわかった。
樹を奪われてしまう。自分から離れてしまう。
それはイヤだと強く思った。
樹はいつもヒナの傍にいてくれた。
父親が事故で亡くなった時も、ヒナが泣き疲れて眠るまで、ずっと傍に寄り添っていてくれた。
最後まで離れずヒナのそばにいてくれたのは、樹だけだった。
『ずっと傍にいるから、もう泣かないで。ボクがヒナを守ってあげる』
そう言って、樹はヒナが落ち着くまでずっと抱きしめてくれていたのだ。
抱きしめられると安心して、少し高めな彼の体温が心地よくて、ヒナはいつの間にか眠りに落ちていた。
泣き虫のヒナが涙を見せるたびに、いつも年下の樹が慰めてくれていた。
母の出張が多くなりだした当初、『泣き虫ヒナ。ひとりじゃ寂しいんじゃない?』そう言って意地悪な笑みを浮かべながら、毎日遅くまで居てくれた。泊まってくれることもしょっちゅうだった。
樹の言動の全ては、ヒナのためであり、彼女を心配してのものだった。
それが申し訳ないと思うと同時に、嬉しくもあった。
樹は言った。
ヒナを恋愛対象としてみていると。
その上で、自分を弟ではなくひとりの男として認めて欲しいと訴えてきた。
とても驚いたが、その言葉に心が浮き立ったのも事実だとヒナは思う。
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